フィクション この記事は古典文学を題材にした架空の読み物です。法的助言ではありません。

五人の貴公子への無理難題プロジェクト

この記事のポイント
  • 達成不可能なノルマの設定はパワーハラスメントに該当しうる
  • プロジェクト失敗による損失・費用は誰が負担すべきか
  • 「自主的な挑戦」に見せかけた強制的な業務命令の問題
  • 不正行為(偽造品の持参)を誘発した発注者の責任

事案の概要

かぐや姫は求婚してきた五人の貴公子それぞれに対し、「その品を持参してくだされば結婚を考えます」と条件を提示した。五つの課題は以下の通りである。

  • 石作の皇子へ:仏の御石の鉢(天竺にあるとされる宝物)
  • 車持の皇子へ:蓬莱の玉の枝(海の彼方の蓬莱山にある金・銀・宝玉の木の枝)
  • 右大臣 阿倍御主人へ:火鼠の皮衣(火の中でも燃えない衣)
  • 大納言 大伴御行へ:龍の頸の珠(龍の喉元にある玉)
  • 中納言 石上麻呂足へ:燕の子安貝(燕が産む際に落とす貝)

いずれも「実在するかどうか自体が不確か」ないし「入手不可能に近い」品である。貴公子たちはそれぞれ莫大な費用と時間を投じて探索・調達に挑み、全員が失敗した。一人(車持の皇子)は職人に精巧な偽造品を作らせて持参したが、かぐや姫に見破られた。

本稿では、かぐや姫が設定した課題の構造を、現代の雇用・業務委託の観点から検証する。

論点1:達成不可能なノルマの法的評価

パワーハラスメントの6類型のひとつに「過大な要求」がある。厚生労働省のガイドラインは、「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害」をその典型例として挙げている。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)第30条の2は、事業主に対してパワーハラスメント防止措置を義務付けており、「業務上の適正な範囲を超えて」精神的・身体的苦痛を与える行為を禁止している。

本件における課題は「実在するかどうか不明」「入手経路が存在しない」「命がけの探索が必要」という特徴を持つ。これを業務ノルマに置き換えると、「目標を設定した時点で達成不可能と分かっているノルマ」に相当する。

問題は、かぐや姫自身が達成可能性を信じていたかどうかにかかわらず、客観的に達成不可能な課題を相手に課したという事実にある。現代の職場においては、この種の過大な要求は「嫌がらせとして設定された不当な難題」として、不法行為(民法709条)に該当しうると評価される可能性がある。

論点2:命令か自主参加か——意思の自由の問題

弁護上、かぐや姫側が主張しうる最大の反論は「課題への挑戦は貴公子たちの自主的な選択だった」という点である。確かに、いずれの貴公子も法的に挑戦を強制されたわけではない。

しかし、ここで問われるのは意思決定の自由が実質的に確保されていたかどうかである。

当時の社会的文脈において、貴公子たちは「高貴な姫からの課題を断る」という選択肢を現実的に取ることができたか。求婚そのものが貴公子の社会的地位・名誉と結びついていた以上、「断念する」ことは社会的な敗北を意味していた。

民法第96条は「強迫による意思表示は、取り消すことができる」と定めている。強迫の要件として、相手方に「害悪を告知する」行為が必要とされるが、学説上は「社会的・経済的地位の喪失を暗示する状況」も広義の強迫的要素として考慮される場合がある。

貴公子たちが「挑戦せざるを得ない」と感じた背景に、社会的圧力が作用していたとすれば、自主的な意思決定とは言い難い。

論点3:探索・調達コストの負担主体

貴公子たちは課題の達成に向けて、航海の費用・職人への報酬・人員の動員等、莫大な費用を投じた。結果として全員が失敗し、これらの費用は回収不能となった。

民法第648条の2第1項(業務委託的な場面における類推)および民法第536条(債務者の危険負担)の観点から、「履行不能に近い課題」を提示した者が、相手方の損失についてどこまで責任を負うかが問題となる。

業務委託契約等において「達成が当初から客観的に不可能な成果」を条件とする場合、その内容によっては目的の実現不能や公序良俗違反(民法90条)を理由に契約の無効や取消が主張される余地がある

かぐや姫が課題の達成可能性について事実と異なる説明を行っていた場合、または達成不可能であることを知りながら課題を設定したと評価される場合は、貴公子らが投じた調達コスト等について不法行為に基づく損害賠償を請求しうる余地がある。

論点4:偽造品問題——不正行為を誘発した責任

車持の皇子は職人を用いて「蓬莱の玉の枝」の精巧な偽造品を製作し、かぐや姫に持参した。かぐや姫はこれを偽物と見抜き、結婚を拒絶した。

この偽造行為は、車持の皇子による不正行為であることは明らかだ。しかし、なぜ彼が偽造に至ったかの動機に、設定者の責任が介在していないかを問うことは重要である。

達成不可能な課題を提示することは、相手を詐欺・偽造へ誘導する誘因となる。「本物を入手できないのなら、偽物で乗り切るしかない」という思考は、無理難題が生み出した必然的な帰結ともいえる。

不法行為法の観点では、「故意または過失によって他人に損害を与えた行為」の連鎖において、最初の誘因を作り出した者にも共同不法行為(民法719条)の責任が及ぶ場合がある。達成不可能なノルマの設定が、不正行為を構造的に誘発したと判断される場合、設定者側の過失や責任が議論の対象となる可能性がある。

結論

五人の貴公子への無理難題は、「結婚の条件」という外観をまとっているが、その構造を分解すると複数の法的論点が指摘されうる。

  • 客観的に達成不可能な課題の設定は「過大な要求」によるパワーハラスメントの構造と一致する
  • 社会的圧力によって自主的な辞退が困難な環境での「挑戦」は、自由な意思決定とはいえない
  • 莫大なコストを投じて失敗した場合、課題設定者への損害賠償請求が検討されうる
  • 達成不可能なノルマが偽造・不正行為を構造的に誘発した点も見逃せない
「やってみてダメならしかたない」で済まない損失を生む課題を設定した者は、
結果に対して無関係ではいられない。

現代の職場でも「達成不可能と分かっているノルマ」を部下に課す行為は珍しくない。本件が示唆しているのは、課された「課題」が誰かの時間・費用・精神を実際に消費するものである場合、その設計や要求の妥当性について設定者側の説明責任等が問われうるという観点である。「達成できなかった側の問題」で終わらせることはできない。

見落とされやすいのは、かぐや姫自身もこの構造の中で出口を持たなかった点だ。求婚を断り続ける「自由」は表面上存在するが、翁の庇護下に置かれ、月への帰還期日も自ら選べない立場では、それは自由とは言い難い。難題を課した側と、課された求婚者だけでなく、課題を設定させられたかぐや姫もまた、この閉じた構造の内側にいた。出口のない場所で交わされた条件は、全員に重くのしかかる。

判定 問題点サマリー
  • 達成不可能な課題の設定——パワーハラスメント(過大な要求)の構造
  • 社会的圧力による強制参加——実質的な意思の自由の制約
  • 回収不能な損失の発生——不法行為による損害賠償請求の余地
  • 偽造・不正行為の誘発——課題設定者の共同不法行為責任の可能性

「自主的な挑戦」の外観をまとっている場合であっても、設定者側の責任が当然に免除されるとは限らないと考えられている。

ちからを貸してくれた傑作:『竹取物語』

竹取物語は、現存する日本最古の物語文学とされる作品。竹の中から生まれた姫君が数多の求婚者を退け、やがて月へと帰っていく——その幻想的で切ない物語は、千年以上の時を超えて読み継がれている。

本サイトはこの物語のもつ普遍的な問いかけに敬意を表し、現代の労働環境というレンズを通してその問いを探求するフィクションを制作しています。


※ この記事は著作権・著作者人格権が消滅したパブリックドメインの古典文学「竹取物語」を題材にしたフィクションです。
※ 登場する人物・組織はすべて架空であり、実在の人物・企業・団体とは一切関係ありません。
※ 法的助言ではありません。実際の労働問題については、労働基準監督署や法テラスにご相談ください。

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